マレーシアに住む、または不動産を持つ日本人は、マレーシアと日本の2つの税制に同時に関わります。マレーシア側で決まるのは「その年に何日滞在したか」、日本側で決まるのは「生活の本拠がどこか」です。2つの判定は別物で、日数だけでは決まりません。この記事は、マレーシアの所得税・不動産関連税と、日本側の居住者判定・申告義務を、公的機関と法律・税務事務所の情報、当サイトの成約データ135件の試算でまとめます。税額は個別事情で変わるため、最終判断は日本とマレーシア双方の税理士に確認してください。

結論|マレーシアは182日で分かれ、日本は「生活の本拠」で決まる

押さえる論点は4つです。

  1. 所得税(マレーシア): 年間182日以上の滞在で税務上の居住者になり、税率は0〜30%の累進(YA2024以降)。182日に満たない非居住者は所得に一律30%で、個人控除はありません(3ECPA・aseanbriefing、2026年9月〜10月確認)。
  2. 不動産の取得・保有・売却: 外国人(非市民)の購入は印紙税が一律8%(2026年1月1日以降)。売却益はRPGT(不動産譲渡益税)で、非市民は取得から5年以内が30%、6年目以降も10%です(LHDN公式・2026年9月時点、詳細は売却の記事)。
  3. 日本の居住者判定: 国税庁は「住所=生活の本拠」を客観的事実で判定し、外国に183日以上滞在していても日本の居住者になる場合があると示しています(国税庁タックスアンサーNo.2875・2026年9月〜10月確認)。
  4. 日本側の申告: 日本の居住者は全世界所得が課税対象です。海外資産が年末に5,000万円を超えると国外財産調書の提出が翌年6月30日までに必要です(国税庁・2026年9月〜10月確認)。

自社試算では、2025年1月以降の成約135件の中央値RM1,780,000の物件を買うと、印紙税8%だけでRM142,400です。売却時のRPGTは、4年後に成約PSFが2021→2025年の伸び率(+28.4%)と同じだけ上がった仮定で、5年目までならRM136,490、6年目以降ならRM45,497です(後述の試算表)。

マレーシアの居住者判定|182日と3つの補助ルール

マレーシアの所得税の居住者判定は、暦年ごとに次の4つのテストのいずれかを満たすかで決まります(aseanbriefing・2026年9月確認。LHDNの正式基準は所得税法第7条)。

ルール内容
182日ルール暦年で182日以上マレーシアにいる
連続182日ルール当年は182日未満でも、前年または翌年にまたがる連続182日以上の滞在の一部である(出張・治療・短期の社交目的の出国は連続とみなす)
90日+3年ルール当年90日以上滞在し、直前4年のうち3年で居住者だった
前後3年ルール翌年に居住者となり、直前3年で居住者だった

1日のうち一部でも滞在すれば、その日は滞在日に数えます。ビザの種類とは無関係で、MM2H(MM2Hの記事)でもDE Rantau(DE Rantauの記事)でも、日数が判定基準です。ビザ側の条件はビザ総合ガイドで整理します。

マレーシアの所得税|居住者は累進0〜30%、非居住者は一律30%

居住者の税率は、個人控除・所得控除を引いた課税所得に対する累進課税です(YA2024以降・3ECPA、2026年9月確認)。

課税所得(RM)税率
〜5,0000%
5,001〜20,0001%
20,001〜35,0003%
35,001〜50,0006%
50,001〜70,00011%
70,001〜100,00019%
100,001〜400,00025%
400,001〜600,00026%
600,001〜2,000,00028%
2,000,001〜30%

課税所得RM100,000なら税額はRM9,400、RM240,000ならRM44,400です(計算根拠: RM100,000までの累計9,400+(240,000−100,000)×25%=44,400)。個人控除はRM9,000が基本で、配偶者・子の控除が加わります。非居住者は控除なしの一律30%で、賃貸収入もこの税率です。

海外源泉所得の扱い。 居住者個人が海外で稼ぎ、マレーシアに送金した所得は、2026年末までの時限免税でした。政府は2024年10月のBudget 2025でこの免税を2036年12月31日まで延長すると発表し、命令が官報に公示されています(The Star・2024-10-19、Bloomberg Tax。免税の適用条件は個別に要確認)。日本の会社員が日本から給与を受け取りながらマレーシアに住む場合、この免税の対象になり得ます。ただし日本側では別途課税が生じます。

不動産にかかる税金|購入・保有・賃貸・売却

不動産の税は、フェーズごとに次の4つです。

フェーズ税目税率・金額出典・確認時期
購入MOT印紙税(非市民)価格の一律8%Finance Act 2025、Zaid Ibrahim & Co・2026年9月確認
保有固定資産税(Cukai Taksiran)年間評価額の4%(クアラルンプール市)連邦直轄領省2013年12月発表・2026年9月確認
保有地代(Cukai Petak)区画ごと・公表なしPTGWP(額は区画ごとに異なる)
賃貸賃料所得税(非居住者)一律30%LHDN公式・2026年9月確認
売却RPGT(非市民)5年以内30%、6年目以降10%LHDN公式・2026年9月確認

購入時の印紙税8%の背景は外国人購入の記事、賃貸経営の実質利回り(管理費・固定資産税・所得税を差し引いた税引後2%台)は投資利回りの記事、管理費と修繕積立金の仕組みはコンド管理費の記事にあります。なお不動産の購入・保有に日本人が使う資金調達は住宅ローンの記事で扱います。

自社データで試算|成約価格帯ごとの印紙税とRPGT

当サイトが集計するNAPIC由来の公開成約(list.my・収集日2026年9月3日、成約年月2021年4月〜2026年2月の568件)のうち、面積400sqft未満の異常値4件を除き(564件)、2025年1月以降の成約は135件でした。価格帯は下位25%がRM1,390,000、中央値RM1,780,000、上位25%がRM3,498,000です。この3水準で、外国人(非市民)が購入した場合の印紙税と、4年後に売る場合のRPGTを試算します。

前提。 売却価格は購入価格の128.4%(2021→2025年の成約中央値PSFが+28.4%だった実績と同じ伸びと仮定)。RPGTの計算は簡略化のため取得・処分費用を無視し、控除はRM10,000か譲渡益の10%の大きい方(LHDN公式)のみです。実際は仲介手数料や弁護士費用を差し引けるため、税額はこれより下がります。

購入価格MOT印紙税8%譲渡益控除後の課税譲渡益RPGT(5年以内30%)RPGT(6年目以降10%)
RM1,390,000(下位25%)RM111,200RM394,760RM355,284RM106,585RM35,528
RM1,780,000(中央値)RM142,400RM505,520RM454,968RM136,490RM45,497
RM3,498,000(上位25%)RM279,840RM993,432RM894,089RM268,227RM89,409

計算根拠は、譲渡益=購入価格×28.4%、控除=譲渡益×10%、課税譲渡益=譲渡益−控除、RPGT=課税譲渡益×税率です。中央値の物件を5年以内に売ると、税額は譲渡益RM505,520の27.0%(136,490÷505,520)にあたります。6年目以降に持ち越すと同じ売却でRPGTは3分の1(RM45,497)になり、外国人でも保有期間の差が大きく効きます。仲介手数料や弁護士費用を差し引いた手取りの試算は売却の記事にあります。

棟別に見ると、直近成約が10件を超えるのはパーク・リージェント・パーク・プレイス・サウス・ブルックスの3棟で、出口(売却)の厚さがそのまま税の実現しやすさに関わります。RM100万未満で外国人が買えない住戸の線引きは外国人購入の記事に整理しています。

日本の税金|居住者判定と申告義務

居住者判定。 日本の所得税法は、国内に「住所」を有するか、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人を居住者とし、それ以外を非居住者とします。「住所」は生活の本拠のことで、住居・職業・資産の所在・親族の居住状況・国籍などの客観的事実で判定します(国税庁タックスアンサーNo.2875・2026年9月〜10月確認)。国内で継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を持つ場合や、日本国籍で生計を一にする配偶者等がいる場合は、住所を有すると推定されます。滞在日数だけで決まらず、外国に1年の半分以上いても居住者になる場合があります。

課税範囲。 居住者(非永住者を除く)は全世界の所得が日本で課税され、非居住者は国内源泉所得だけが課税されます(国税庁・2026年9月〜10月確認)。マレーシアに家族ごと移り、日本の住居を引き払い、仕事の拠点もマレーシアなら、日本の非居住者となる可能性があります。日本に家族を残す単身赴任型は、日本の居住者のままとなりやすい構造です。判断が分かれる場合は、出国前に日本の税理士へ確認してください。

日馬租税条約。 日本とマレーシアは1999年に租税条約を締結し(外務省・財務省、2026年9月確認)、両国の居住者となる二重居住は、恒久的住居→重要な利害関係の中心→常居所→国籍の順に判定します。不動産の所得・譲渡益は所在地国(マレーシア)にも課税権があり、日本の居住者は納めたマレーシア税を外国税額控除の対象にできます(条約の要約・財務省文書、2026年9月確認)。

国外財産調書。 その年の12月31日に、国外にある財産の合計が5,000万円を超える日本の居住者(非永住者を除く)は、翌年6月30日までに国外財産調書を提出します。未提出には加算税や罰則があります(国税庁・2026年9月〜10月確認)。RM1,780,000の物件は、為替を1リンギット=35円とすると約6,230万円で、この線を単独で超えます(計算根拠: 1,780,000×35=62,300,000円。為替は仮定で要確認)。

国外中古建物の損益通算制限。 2021年以後、日本の居住者が国外の中古建物から得る不動産所得の損失のうち、簡便法で計算した減価償却費に相当する部分は、他の所得と損益通算できません(令和2年度税制改正・税務メディア、2026年9月確認)。築年の古い棟(築13年のウェストサイドIなど)の賃貸運用で、日本の所得税を圧縮する狙いは通りにくくなっています。

滞在パターン別の課税イメージ

滞在日数と生活拠点の組み合わせで、2国の判定は次のように分かれます。

パターンマレーシア日本影響
短期滞在(年間90日)非居住者居住者賃料は30%、日本でも全世界課税
単身赴任(年間200日)居住者居住者になりやすい二重居住、条約で調整
家族ごと移住・日本の家を処分居住者非居住者となる可能性日本は国内源泉のみ課税

移住前後の年は、日数と本拠地の切り替え時期が判定を難しくします。出国年の日本の確定申告と、マレーシアの初年度の納税義務を同じ時期に整理しておくと、後から二重の申告漏れが出るリスクを避けられます。移住のコスト面は移住の費用の記事、法人化した場合の税務は会社設立の記事、老後の資産設計はリタイアの記事で扱います。

物件購入と税務を並行して考えている方は、購入予定時期・保有年数・日本の居住予定をWhatsAppで送っていただければ、その条件で買える棟と、税務上確認すべき論点を個別に整理してご案内します。

よくある質問

マレーシアで非居住者になると税金はいくらですか

非居住者の所得税は控除なしの一律30%です(3ECPA・2026年9月確認)。居住者は0〜30%の累進で、課税所得RM100,000ならRM9,400ですが、非居住者は同じ所得にRM30,000かかります。

日本人は滞在日数183日以上でマレーシアの居住者になりますか

なりません。マレーシア側の判定は暦年で182日以上です。日本側は日数だけでなく生活の本拠で決まり、183日以上外国にいても日本の居住者になる場合があります(国税庁タックスアンサーNo.2875)。

外国人がマレーシアの不動産を売ると税金はいくらですか

RPGTは、取得から5年以内なら譲渡益の30%、6年目以降は10%です(LHDN公式・2026年9月時点)。RM10,000か譲渡益の10%の大きい方が控除されます。市民・永住者の6年目以降0%は外国人に適用されません。

マレーシアの不動産は日本で申告が必要ですか

日本の居住者は必要です。賃料所得や売却益は日本でも申告対象で、納めたマレーシア税は外国税額控除の対象になり得ます。12月31日に国外財産が5,000万円を超える場合は国外財産調書も提出します(国税庁)。

海外から日本の給与を受け取っていると、マレーシアで課税されますか

居住者個人がマレーシアに送金した海外源泉所得は、免税措置が2036年12月31日まで延長されています(The Star・2024-10-19)。適用条件は所得の種類で異なるため、給与を受け取る前に確認してください。